第1章『ウニ・ククドゥール』
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第1章『ウニ・ククドゥール』
第2話「君島さん号泣事件」
独立直後、ククドゥールは王国を名乗り、木星諸国連合に加盟した。社員全員参加の絶対王政だ。食糧自給率4万パーセント。食品会社が独立したのだ。そんな数字にもなろう。
中小企業が始めた手作りの王国である。みんな仲が良くて、あたたかく、いい国だった。王族の冠などもすべておばちゃんたちの手作りだ。
王国は順調に思えた。だが、あの事件が起きてしまった。
だが、本社工場仮設営業所こと王国執務室にニュースが走った。
「君島さんが泣いて帰ってきた!!」
君島さんはみんなが大好きな、笑顔の優しい営業担当、大人のお姉さんである。あの君島さんを泣かすなんてどいつだ!温厚なククドゥール人でも、これは腹が立った。ヒドイ。
本社工場のみんなが営業所に詰め寄った。キツイ。
君島さんの説明によれば、パシフィックをはじめとする中央政府(いわゆる木星連邦居残り組み)諸国が直接取引をしてくれなくなったというのだ。ククドゥールの輸出先の大半は中央政府である。人口がかなり多いわりに、あんな食糧自給率の低い国はどうやって食べていくのだ?第一、新鮮な卵はククドゥールでしかとれない。政治の都合で、卵を買わないなんて、どういうつもりだ?
「中央政府がもう卵を買ってくれない」
君島さんはそれはもう号泣で、みんなももらい泣きした。中には事情もよくわからないけれど泣けてきたという人もいる。これが「君島さん号泣事件」こと「君島さんの泣きにつられて本社号泣事件」である。
先代の対応はきわめて早かった。中立といわれるロンやカリストを通して卸すことにしたのである。直売でがんばってきたが、さすがに妥協するしかなかった。
これは地味に痛手を負う形になる。なぜ今まで直売にこだわってきたのか、創業千年の企業は忘れてしまっていた。いや、こんな規模の直売範囲なんて誰にも想像できたわけではない。ともかく、直売こそが一番だったのだ。
ククドゥールの朝は早く、昼に国民みんなでごはんを食べたら退社時間である。午後は(何に使うのかはわからないが)資格試験の勉強やカルチャースクールなどに行き、自分の時間を充実させ、夜は早く寝るのが一般的なククドゥール人の生活である。
ところが、ロン経由やカリスト経由の卵は到着がなかなか確認できず、ついにお昼を大きく過ぎる残業が発生することになった。残業は国民全体の責任。みんなの退社時間はどんどん遅くなっていった。
生活のリズムが狂ってしまった国民のストレスはすぐに爆発した。のどかな国民性のわりに気が短かったのである。ククドゥール人の怒る姿は誰がどうみても全然こわくないが、その「ナガイ」ことに対するいらいらは見ていてかわいそうになるはずだ。
困った先代は隣国のコミネ王国(小峰重工)を急遽買収し、生産管理などのノウハウを手に入れた。
早出作戦、ライン再構築など矢継ぎ早に手を打ったが、最大3時間の短縮にしかならず、結局1時間の残業が続いた。これについての説明を朝礼で繰り返したが、これはナガイ!としてより国民を疲れさせた。
先代の最後の手は退任だった。後任を弟に託し、自らは「卵取りの達人」に戻り、出荷速度を早めるしかなかったのだ。国王が取れば百人力。・・・だが、たりない卵はうん万倍だ。先代は、無理をして、あっという間に体を壊してしまった。
先代の体を気遣った現国王は、中央政府への輸出を当面加工食品のみにとどめ、生卵の取引については当面休止となった。
フランソワは何もできないでいる自分を責め、父に詰め寄った。国王は、フランソワにいくつかの会社を継がせた。そして「ウニを手助けしろ」とだけ、勅命を与えた。コミネ王国はウニが国王、フランソワが副王となる。
翌日。ククドゥールホールディングスはククドゥール帝国を樹立。傘下の会社(王国)を巻き込んでの大仕事だったが独立・合併・分裂の多い木星で、大きなニュースにはならなかった。だが、これはウニの思惑通りとなる。
『宇宙戦艦ぴよぴよ 〜皇女の復讐〜』
第1章『ウニ・ククドゥール』
第2話「君島さん号泣事件」→第3話「ウニとフランソワ」
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