第1章『ウニ・ククドゥール』
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『宇宙戦艦ぴよぴよ 〜皇女の復讐〜』
第1章『ウニ・ククドゥール』
第1話「たまごとり」
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ーーーククドゥール食品、小峰重工を買収
この経済ニュースは、偉大なる木星でさして大きなインパクトをもたらさなかった。この歴史的瞬間を、中央政府は関心すら持たなかった。だが、こう書き換えればことは重大だったのだと、多少の人は気づくだろう。
ーーーコミネ王国、ククドゥール王国の傘下に
大きすぎる中小企業「ククドゥール食品」はわずかの期間に衛星イオの企業を買収し、一大グループを築いた。これは企業国家が企業国家を吸収することであり、絶対王政の抱えるグループはすなわち「帝国」であった。衛星イオの天下を統一したククドゥールは晴れて「ククドゥール帝国」となったのだ。
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おだやかな風、温かな気候。どっこまでもまったりとしたこの国土。衛星イオは温泉が湧き出るほどあたたかかった。
衛星イオの中でもほぼ一日中、太陽のあたる北極周辺にはそれはそれは広大な牧場があった。
日本で言えば九州くらいある巨大な自然牧場に、多くの鶏が放牧されていた。それはククドゥールが管理する農園であり、よくよく調べれば、雄鶏限定エリア、雌鶏限定エリア、家族エリアに分かれていることがわかるだろう。そのほとんどは雌鶏エリアで、ククドゥールは昔から、卵を集めて売るのが主な仕事だった。
臣民すなわちククドゥール社員は、代々この卵取りの仕事を続けており、早朝から卵を拾いにいくことは国民の義務だったのである。これは旧コミネ王国の人々を驚かせたが、感心させもした。
国民の義務は王族の義務でもある。皇帝の娘フランソワ・ククドゥールは最近まで、自分含め世界中のすべての人が毎朝卵をとりにいくのだと思っていた。
コミネ王国にいた人々が朝卵をとらないことに最初は怒りもしたが、どうやら、この義務が単なる家業の一環であることにようやく気づいたのである。
この日もフランソワは朝5時に起きて卵を集め、8時には多くの卵を回収場所に収めていた。
回収のおばちゃんは「さすが達人の姪だね」と褒めてくれる。なんとこのおばちゃんはフランソワと同じだけの卵を先に集めてみんなを待つのだ。フランソワはまだ若く、回収のおばちゃんほど卵を集められないのだが、こんな風に評価されると嬉しかった。自分は国のために役立っている。その誇りは王族に必要なものだった。
皇帝の娘という立場で、とても参考になる人がいた。従姉のウニ・ククドゥールである。
先代国王ククドゥルットゥルの娘がウニである。先代の弟で現国王(兼皇帝)ククドゥットゥルはフランソワの父である。外務をウニが、内務を皇帝が治めているのだ。
フランソワはウニを尊敬していた。優しくて賢くて、なにより知恵があった。ただ、天然ぼけの多い国内で、特に天然ぼけが多いといわれる王族内で、ウニの天然っぷりは並ではなかった。きっと頭がよすぎるのだろう。ウニの外務政策は王族以外には内容を知らせていない。一見奇想天外な作戦でも、きっとウニならば、予想を超える成果をのこすことだろう。
ウニの決意の固さを、フランソワは身が震えそうなほど知っている。先代をあそこまで追い詰めた、中央政府や木星の諸事情に、ウニは平和的復讐を実行しつつある。中小企業が数々の超大国に、悪戯としか思えない戦争をしかけるのである。
何が先代を苦しめたのか、それは独立直後のあの事件からはじまる。
『宇宙戦艦ぴよぴよ 〜皇女の復讐〜』
第1章『ウニ・ククドゥール』
第1話「たまごとり」→第2話「君島さん号泣事件」
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