小さくのどかな私らは、ミドルアースにいたらホビットに分類されるでしょう。あ、でも来客好きな感じだとかを加味するとククドゥール人の方がホビットに近いですね。
ロード・オブ・ザ・リングがいかにも壮大で危機的に始まる印象があるため、身構えていたのですが、ホビットは身近な冒険のように始まりじわじわ広がる物語です。前者はドラクエ型、後者はドラえもん型と言えましょう。
シリーズものばかり作っている身としては、どうつながっているのかを楽しみに行きました。
特徴的なのは魔法使いの位置付けですね。エルフも魔法使いも魔王だかなんだかを封印したことがあるようで、そこから平和を見守っています。そこはざっくりとしか触れません。長寿で能力や誇りも高い。それでも複数人いるので個性がある。
白の会議のメンバーはまさに常任理事国。エルロンドは人格者で人を励ます力に長じています。頑固なトーリンにもお兄さんのように接する姿が高貴だなと感じました。ガラドリエルはほとんど女神です。何でも魅了します。指輪を捨てる旅の頃には中ボスになってたサルマンはとても立派な人で、ガンダルフに説教できる立場です。灰色より白の方が階級高いんでしょうね。ガミガミ言ってるサルマンに言い訳がましく弁明してるガンダルフがチャーミングでした。
イギリス演劇の底力を見た気がします。とにかくお芝居が丁寧。内面の変化が目の奥に表れるし、会話の間だって納得のいくものです。調べれば調べるほどキャスティングが驚異的に良いし、恐らくはつくり手の求めるレベルがだいぶ高いです。クリーチャーですら表情豊かで、意味のある芝居をしています。
脇役の重厚さに負けず、ビルボの演技は圧倒的に印象に残ります。コメディアン系の役者さんなんですが、ハリウッドでもコメディアン出身の役者さんが化けたりするのと同様、名優の兆しが濃く、庶民の顔から英雄の魂が芽生えてくる感じがよく合っています。一生忘れられない役者さんです。
タイトルをホビットにしておきながら、主要メンバーがほとんどドワーフというのがこの作品の肝でしょう。職人気質で頑固で朗らかで、なんだか頑丈。乱戦での無双っぷりが格好いいです。故郷を取り戻す志が泣けます。
トールキンという作家にも興味が沸きました。中心者の一念が狂うと国も荒れるっていうのは、日蓮仏法の観点ですよね。ガンダルフの挑戦しようとしている、庶民こそが平和を作るという思想も仏教が持つ生命論っぽいです。そうなると、ビルボもトーリンも宿命の中に使命を見い出し、彼等の変革がそのままミドルアースの変革につながるのだと想像できます。とてつもない作家ですね。
ファンタジーをきちんと生命論でまとめてある。トールキンの描くミドルアースの世界は素晴らしいと思いました。研究し甲斐がありますね。続きもじっくり待ちます。
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